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-開始-
目が覚めたとき、僕は肌寒さを感じた。
いや、肌寒さの所為で起きたのかもしれない。
僕は半身を起こすと、辺りを見回した。木々たちが延々と並んでいた。
僕の近くは、所々闇が濃かった。
多分、何かがそこにあるのだろう。
視線を上に移すと、雲は一つも無く、満月が誇らしげに光っていた。
そして視線を元に戻し、目を凝らして近くにある物体を見つめる。
しかし、僕はまだあまり目が慣れていなかったので、しばらくした後にもう一度見ることにした。
目を閉じる。
僕は何故こんな冬の、しかも夜の森に寝ていたのだろう。
覚えているのは、バスの来なかった集合場所と、薬品の臭いだけだった。
きっと何かの目的のためにここに連れてこられたのだろう。
しかし、何故建物の中ではなく、こんな森の中に放置したのだろうか。
葉が揺れる音がする。僕はすぐにそちらを向いた。
が、何も無く、ただ今までと何ら変わらない闇があるだけだった。
脳裏に、ある言葉が反映する。
『千葉にある森で変死体が見つかりました』
一度目の女性アナウンサーの声と、二度目の男性アナウンサーの声がダブる。そして何回も何回も続く。
―――ここは、千葉だ。
僕は確信した。
きっと僕はそのうち変死体として見つかるのだろう。
だが、僕は変死体になる可能性があるかわりに、その変死体までの過程を見ることが出来るのである。
そう思うと、僕は何故だか心が弾んだ。
明らかに不謹慎だったが、僕はとても喜んでいた。
「ん…んんっ…」
僕は肩をビクッと上げながら驚いた。不意に声が聞こえてきたのである。
僕はすぐにその声がどこから聞こえたのかが分かった。
先ほどの濃くなった暗闇には、人が居たのである。
暗闇と人の影が重なり、更なる闇を生んだのだろう。
するとここには僕を合わせて六人ほど居るはずだ。
全部が人ならば、であるが……。
-END-
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