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僕は、目を凝らす。
少し慣れてきたので、そこに倒れている人の顔を見ることが出来た。
しかし、どの人もあまり覚えが無く、年齢も全然違うようだった。
二十前半くらいの男が二人、後半くらいが一人。
三十後半くらいが一人、そして僕と同じくらいの人が一人居た。
そのうち三人はどこかで見た記憶が有ったのだが、良く思い出せなかった。
だが、その三人とは別に、一人だけ記憶がはっきりしている人が居る。
どこぞの有名な会社の社長のボディガードをしている人だ。
テレビで何度も見たことがあったので(しかもサングラスなどで顔を隠していなかった)、その人だけは覚えていた。
一人、ようやく思い出せた。確かこの人は元プロボクサーだ。
二、三年前に引退し、その後行方を暗ました人だ。
山にこもって修行をしていた、と云う噂を聞いたことが有ったが、僕と同じように招待状を貰ったのなら、多分それはただの噂だったのだろう。
考えていると、もう一人思い出せた。
学校の先輩だ。
確か生徒会の書記あたりをしている人だ。
あまり覚えていないが、確か名前を椎原とか云ったと思う。
記憶は曖昧なので、合っているかは分からなかった。
「ふぅ…しかし、どうしたもんかねぇ」
独り言を呟くと、生きているかも分からぬ人達の中から、声が聞こえる。
「お前は、誰だ?」
さっきの三人の中で、唯一思い出せなかった人だ。
その口調、近くで見た顔。
――思い出した。こいつは、犯罪者だ。具体的に何をしたかは覚えていなかったが、ニュースで何度も顔が出ていた。つい最近捕まった人だ。
「ど、どうしてこんなところに」
彼は不思議そうな顔をしてこちらを見た。
「あぁ? それは俺が聞きたいことだ。俺は何でこんなとこにいんだよ。
確か警官が無理やりパトカーの中に俺を入れて―――……思い出せない」
僕も、彼と同じように、ここに来る前の記憶が曖昧だった。彼はきっと何かの目的があってここに来たわけではなく、彼は自分の言うとおり、無理やり連れてこられたのだろう。
-END-
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