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僕と同じように、薬品で眠らされて。そう考えると、彼を連れ出したのはきっと本物の警官ではなかったのだろう。
彼は辺りを見回している。
暗闇に警戒している、小動物のようだった。
彼のその時の目を見たら、僕は何故だか彼が犯罪者であることに疑問が生まれた。
まるで、母親を探す子供のような、幼く純粋な目をして辺りを見回しているのである。
彼は、本当に犯罪者なのだろうか。
また一人、目が覚めてようだ。
目が覚めたのは、学校の先輩だった。
「ったー…」
頭を抑えながら起き上がり、彼は飛び上がらんばかりに驚く。そして何度も何度も同じ台詞を繰り返す。
ここはどこだ? 何でこんなところに?
「椎原、先輩…ですよね?」
「えっ? 君は誰だい?」
彼は僕に顔を近づける。
「あなたと同じ高校の一年です」
僕は自分でも敬語が使えることに驚いた。
家で親と話す時はもちろんタメ口だった。
うちの親は敬語を使わずとも、怒らなかった。むしろ、フレンドリーさを求めているようだった。
学校で教師と話すことなど一切無く、先輩とも話すことなどなかった。
彼は頭を抱えながら、眉間に皺を寄せている。
きっと彼は薬品ではなく、頭を殴られたのだろう。
それとも、僕のことを知っていて、思い出そうとしているのだろうか。
「ああ、君は……桜井君と言ったっけ?」
「え? 僕のこと知ってるんですか?」
どうやら、先ほどの選択肢はどちらも当たりだったようだ。
僕の名を言い当てたあとも彼は頭を抑えて片目をつぶっている。
相当強く殴られたのだろう。
数時間程は寝ていた思われるが、それにも関わらず彼は痛がっている。
「もちろん知ってるさ。入学当初は成績優秀、スポーツも出来る人気者だったが、何故だか学校に来ない日が増え、授業をサボりだした。でしょ?」
「はぁ。まぁそうですけど」
「生徒会は君みたいな目立つ生徒のことはチェックしているんだよ」
「へぇ~、そうなんですか」
ほどから、犯罪者の目が気になる。辺りを見回しながら、たまにこちらをチラチラと見てくるのである。
-END-
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