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先輩は彼に気付いたらしく、驚いた。
しかし、彼が犯罪者だからではなかった。
「あれ? 慎太郎さん?」
男は黙っている。
「そうでしょ? いやー、最近見なくなったから心配したよ。どこに居たの?」
「先輩、アイツ…」
「ああ、彼は僕の家庭教師をしていた人だよ。結構近くに住んでいてね」
犯罪者は黙っている。
犯罪者が、元家庭教師?そんな筈は…。
「ねぇ、聞いてるの? 慎太郎さん」
「黙れ! 俺は慎太郎なんて名ではない!」
男は大声でほえた。
その所為で、眠っていた全員が目を覚ます。
全員、「ここはどこだ?」と呟いている。
「俺はなぁ! 俺は慎太郎の…」
男が叫んだところで、声を遮るようにまた別の男がしゃべりだす。
それはここに居る人たちの声ではなかった。
「やぁやぁ、皆さん。お目覚めですか?」
男は、皆の反応を無視し、続ける。
「皆さんはかくれんぼって分かりますか?」
「子供が遊ぶ、アレだろ?」
誰かが言った。
「そうです。子供が遊ぶゲームの一つです。皆さんには今からそれをしてもらいます」
どこかで聞いたことの有るような台詞回しだった。そうだ、教師が生徒達に殺し合いをさせる、あの映画だ。
「何だ? 映画のパクリか?」
僕は少々強がって、思ったことをすぐに口にした。
「いえいえ、そんなことはしませんよ。あなた達が今からするかくれんぼは、そこらのかくれんぼとは違う。殺し合いじゃないんですよ」
「どういうことだ?」
犯罪者が問う。
「かくれんぼのルール分かってるんですか? アレは、鬼が一方的に探し、見つけるゲームです。要するに…」
男が語尾を延ばしていると、唯一誰だか分からなかった男がしゃべる。
「見つかったら殺される。一方的な殺しな訳ですか」
「ハイ。具体的に言えばちょっと違いますけど、そうですね」
見つかったら、殺される。
「じゃあ、今からやることも分かったことですし、早速説明を始めましょうか。こないだまでは銃とか使って殺してたんですけど、これからは新たなものを使います。これです」
男が取り出したのは、コンタクトレンズだった。
-END-
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