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「いやー、危ないところでした。言い忘れたことがありましたよ。コンタクトを付けないと狙撃されちゃいますので。私が去ってから付けてくださいね。狙撃されちゃうんで」
そして男はまた、去っていった。
犯罪者は、何事も無かったかのように話を戻した。
「俺は慎太郎の双子の兄だ。名を幸太郎と言う」
お互いの顔を見つめて。
「取りあえず、自己紹介でもしませんか?」
「そうだな。お互い名も分からぬままでは話にならん」
僕が切り出すと、元プロボクサーは答える。
「待てよ、お前らは一緒に隠れてようって言うのか?」
「そんなつもりは無いですけど。せめて隠れてる途中で会ったら協力するかもしれませんし」
「俺は誰とも協力する気はねぇ。先に行かせて貰うぜ」
犯罪者はそう言って去っていった。
「えーっと、じゃあ僕から。この県の高校に通う桜井高志です」
「お、おい待て」
元プロボクサーが食いつく。何かおかしなことでも言っただろうか。
「はい?」
「アイツはここがどこなのか言っていたか?」
そういえば…。
「ここは…千葉ですよ。この森は少し見たことがある。変死体が見つかった森です」
「変…死体」
元プロボクサーは押し黙った。
「まぁ、続けましょうよ。どうせ逃げられないんですし。えっと、僕は彼と同じ高校に通う椎原信明です」
「私は茨城の警察署に勤めている近藤太一と言います」
「私は三葉株式会社社長のボディーガード、松戸裕太です」
元プロボクサーは黙っていた。
代わりに僕が話す。
「皆さん分かってると思いますけど、彼は元プロボクサーの木村龍二さんです」
僕は続ける。
「皆さんの名前も分かったところで、それぞれ散りますか」
その言葉を合図に、一人ずつ去って行った。
僕は最後にその場を離れた。
-END-
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