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男性アナウンサーのはきはきした口調が、何故だか気に入らなかった。
それにしても、またも千葉の森で変死体が見つかった。つい、どこの森なのかを調べたくなる。
僕は部屋にあった地図を取り出し、広そうな森を探した。銃で撃たれた痕があるということは、銃声が近くの街に聞こえないくらいの距離があるはずだった。もしも街の人に銃声が聞こえたのなら、もっと早く死体は見つかっているはずなのだった。千葉にある森で、一番広いところを探す。
あった……
「んー、家にはあまり近くないな」
僕は何故だか少しがっかりした。
翌日、学校で事件のことが話題になることは無かった。所詮この学校に通っている人間達は感情のない勉強だけを楽しみとしているロボットたちなのだろう。
僕はその中の一人なんだと、少しがっかりした。やはりこの学校に入ったのは間違いだったかもしれない。僕の元々の学力でいけるような、普通の学校に通えばよかった。
朝のホームルームの時、教師でさえその事件には触れなかった。
ただ、てかてかに光る髪の毛を片手でいじりながら、「お前達はこの学校で競争しているんだ。
社会に出ればもっと多くの人数と競争することになる。
今よりもっと勉強をし、蹴落とせるヤツから蹴落としていけ」とありきたりなことを口走って教室を出て行った。
担任の名前は桜井博史。
この学校で一番嫌われている先生である。僕は彼と同じ性であることを悔しく思った。何故彼は田中とか鈴木なんて云う簡単な性じゃなかったんだろうか、と常々思う。
昼休み、僕は屋上に居た。
「桜井、今日空いてるか?」
久しぶりに杉原が話しかけてきた。
実に一週間ぶりである。
「ああ、空いてる」
「そうか、良かった。
じゃあ放課後、校門で待ってるから来いよ。久々にボーリングでも行こう」
僕は曖昧に答える。
「それより、お前、周防は良いのか?」
立ち去ろうとしていた彼を呼び止めた。
彼はすぐに振り返り、にかっと笑った。
白い歯がこちらを見る。
「ああ、今日はアイツ休みなんだ」
「そうか、ドンマイ」
何故か口から「ドンマイ」の言葉が出た。
彼はさっさと消えていった。
僕は彼の後姿を、見えなくなるまで見つめた。
-END-
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