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特に理由は無かったのだが、寝る前まで考えていた、あの事件の続報が聞きたいと思っていたのだろう。自分でもはっきりはしなかった。
玄関先にあるポストを見る。
中には新聞と数枚のチラシ、そして僕宛の手紙が入っていた。僕は手紙だけリュックに入れ、家に入る。
リビングに向かうと、僕は適当なところに新聞とチラシを投げた。母は「お帰り。ありがう」と言って新聞を手に取った。
母はいつもより少し遅く帰ってきたことについて何も言わなかった。僕は気にせず、自室に入った。
寝ようかな、と思った時に、手紙のことを思い出した。
「何々?」
『桜井高志様。あなたは今回観光ツアーに行けることが決まりました。たくさんの応募者の中から選ばれたのです。
以下の日に、笹原ヶ丘公園前にお越しください。バスがお迎えに行きます』
ツアーの参加を希望した記憶は無かった。
母に確認するために、一階に下りることにした。
「母さん、観光ツアーに応募した?」
「してないわよ。それがどうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
明らかに怪しかった。
しかし、応募していないのにタダで観光ツアーに行けるのなら、別に問題は無かった。
そういえば、もう少しで母の日だ。
「母さん、これあげるよ」
「なあに? これ」
「良くわかんないけど、観光ツアーの招待状」
「いいわよ、高志が行きなさいよ」
「でももう少しで母の日だし」
「私、欲しい服があるの」
「ああ、そう」
僕は観光ツアー日である十二月九日を空けておくことにした。三日後である。
それから僕は毎日今まで通りに過ごした。
特にそのことを誰かに言うと云うことはなかった。
そして、当日。
「じゃあ、母さん。行って来るよ」
「持ち物は無いの?」
「うん、向こうがある程度用意してくれるみたい。携帯は持っていくけど」
「そう、じゃあ気をつけてね」
僕は家を出て、歩いて笹原ヶ丘公園を目指した。
-END-
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