-死者-

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-死者-

「ったく、こんな森の中でどうやって三日も逃げ切れって言うんだ」 つい口調が強くなった。 手の中にあるままのコンタクトを、握る。 そして瞬く間に開く。 もし、このコンタクトが壊れたらどうなるんだ、と云う疑問が過ぎり、簡単に握り壊すことを躊躇ったのである。僕は壊してしまう前に目の中に入れた。 コンタクトを入れるのには抵抗があった。 目薬を差すのと同じような感覚だったが、入れてしまうとさほど違和感は無かった。 しかし、コンタクトを入れるのは片目だけでいいのだろうか。 両目に入れないとバランスが悪い感じがした。それにしても、このコンタクトの中心にある×印が邪魔でならない。   狂った連中だ。何が「かくれんぼ」だ。 今時、子供でもやらない。   適当に歩を進めていたが、ここがどこなのか分からなくなってしまった。 いや、元々分かってはいなかったのだが、どの方向に進んでいるのかも、旗からどこまで歩いたのかも、全く分からなくなってしまっている。 急に、三日後旗の位置に戻れるかが不安になった。   それにしても、説明が足らない気がしてならない。 食事のことを聞いていないし、相手の数も分からない。 いや、言うならば睡眠もだ。睡眠中、コンタクトレンズ同士が向き合ってしまったら、いつの間にか永遠の眠りになっているのだ。だが、睡眠ならまだ何とかなる。 ここは闇だ。 木の上に隠れるか、うつ伏せになって寝るか。   腹の虫が鳴る。食事のことを考えるのは極力控えよう。   突然、草が揺れる音がする。 僕はすぐに身を隠した。   「ったりぃなぁ…。何で俺がこっちに回んなきゃいけないんだよ。“賭け”の方がやりたかったのになぁ」 耳を疑う。 賭け…? 「目を合わせるだけなら下っ端でも出来るってーの」 ヤツを人質にすれば、あの男達は僕らを解放するかもしれない…。 自分が妙なことを考えていることに、しばらく気付かなかった。無理に決まっている。やめるんだ。 死ぬだけだ。自分を宥め、落ち着かせる。   こちらに歩いてきた男は、いつの間にか居なくなっている。   皆に知らせなければならない。 これは賭けなんだ。きっと誰が生き残るかを賭けているんだ。     -END-
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