《プロローグ》ロンドンは雨だった

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「にこ。」 我に返って父さんを見上げると柔和な笑を浮かべ、こっちを見てる 「日本に、帰らないか?」 ただその一言を私に言うと、母さんの墓地に目を向けてまた押し黙った。 目の前に立つ冷たい石に深く彫られた母さんの名前と生まれた日・死んだ日が5歳の私に何かを言っていた。 分かってる。『答え』だなんて、一つだけ 黙っている父さんを見て、無邪気な笑顔を浮かべて、 「うん。帰る」 そしてまた墓地を見つめる。 私は見てしまった。 父さんの整った前髪からちらり、と。 少し垂れ下がった眉。曇った父さんの目。 私はやってしまった。 人生で初めて、"作り笑い"というものを。 そして、 崩れ出した"何か"。 ここで、気がつくべきだったのか。
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