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『カフェ・キエフ』は、店主が語るところによれば「芸術に明るい若者の集うお洒落なカフェ」らしい。
だが俺の見たところ、入り口に置かれた左右で形も数も合わない大量のシーサーの置物や、耳元でガラガラとやかましいドアのベル、オレンジと紫がランダムに配置された薄暗い照明、色みも材質も、形すら統一されていないテーブルと椅子、一体どこで作っているのか、極彩色のティーカップとコースター等々、どれをとっても芸術に明るいとは到底思えない品々には、見るたびに不快にさせられる。
それでも週2、3回この店を訪れているのは、此処に集う人間を観察するのが面白いからだ。
時代の流れに取り残された抽象画家。作っては割るという行為を延々と繰り返す陶芸家。極度のあがり症のヴァイオリン奏者。人前でどもる活弁士。アル中で手の震えが止まらない書道家。先端恐怖症の彫刻家。楽器の弾けない作曲家。そして笑えない下ネタしか出来ない劇団員3名。
そして俺を加えた11人がこの店の常連である。
要するに全員負け犬であった。
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