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私はその壺を探す為に、実に8年ぶりに帰郷した。
氷の壺を探しに来たというのは、実のところ体のいい言い訳に過ぎず、私は失職して都会から逃げ帰ってきたのだった。
それでも、故郷へと向かう鈍行列車の中、それを見つけることで何かを得られる、この閉塞した自らの状況に活路を見いだせる、そうした根拠のない思い込み、言うならば信仰に近い観念に囚われていた。
駅を出ると、目の前の全てが朽ち果てたような光景が広がっていた。
12月の硬質の冷気が頬に刺さる。
帰ってきた、改めてそう実感したが、感動はない。
不意に心臓が縮みあがるのを感じ、同時に焦燥感に襲われて、私は早足で駅を離れた。
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