氷の壺

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 まず、中学時代に親しかった旧友の家を訪れた。  突然の訪問ではあったが、幸運にも彼は在宅中で、玄関先には彼が出てきてくれた。  懐かしいな、そうは言ってくれたが、その時の彼の、怪訝そうな、迷惑そうな表情が忘れられない。  氷の壺の話をしたところ、ますます怪訝さは色濃く現れた。  知らない、という返事を受けて、私は早々に彼の家を離れることにした。  せっかく来たのだからゆっくりしていけ、そんな彼の誘いを丁重に断った。  いかに落ちぶれた私でも、そこまで厚かましくなってはいない。
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