氷の壺

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 帰りの列車の中で居眠りをしていると、こんな夢を見た。  冬の朝、私は深い森の中、光も届かぬその奥へと進む。氷の壺はそこにあった。  私はそれの中をのぞき込んでみたが、そこには虹色の影は無かった。  水面に映るのは、黒い私の姿と灰色の空。  それでも壺だけは持ち帰ろうと思い、壺を抱えて森を出ようとするが、どこまで歩いても出口が見えない。  そのうち壺が溶け出し、再び私が中をのぞき込もうとした、その時。  突然壺の底が抜け、中の水が流れ出してしまった。  そこで目が覚めた。  列車に乗り込んでから、たった3駅通過したばかりだった。
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