氷の壺

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 車窓から外を見ると、夕焼けに染まった見覚えのある景色が流れている。  いつしか日は落ちて、景色は夜の闇にとけ込んでいく。  もう壺のことなど、どうでもよくなっていた。  車内に目を移すと、乗客はまばらで、皆押し黙ったまま座っている。顔には生気がなく、まるで人形のように見える。  古い車両に乱雑に揺すられながら、私は自分に残された時間が既に残り少なくなっていることを知った。             (了)
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