―高戸と喧太―

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高戸とは、林野一家の若者で喧太の兄ィにあたる人物だ 高戸は中学を出ると、北海道の南に位置する小さな町の施設を飛び出し遠い札幌の地に出てきた 両親も兄弟もいない高戸が小さい頃から過ごしていた施設だ 行く宛もなく札幌の街を放浪していた高戸に声をかけたひとりの男 林野一家の現在本部長で、当時は本部長補佐だった杉村である 一目で高戸を気に入った杉村は有無を言わず、林野一家に招いた その日から組織の事務所や会長の家で寝泊りし、林野一家の部屋住みとなる 生んでくれた親の顔さえ知らない高戸は、組織の中でメキメキと力をつけていく やがて高戸は、まだまだ子供ではあったが林野会長から親子盃を貰う そして高戸は、まだ16才という年齢ではあったが本人の意向もあり、1人東京に渡りN会本部に体を預けた 約1年間、N会の本部事務所に寝泊まりし自分の顔を売る日々 何事にも好奇心と度胸で真剣に取り組み、嫌な顔ひとつ見せない高戸 彼のそんな姿は、本部に出入りするN会直系の世間に名の知れた親分達の目に止まるようになる その中で特に目をかけたのは、横須賀市に本拠を置くN会直参井田組組長の井田親分であった 井田親分は、高戸と同じ歳の息子さんを不慮の事故で亡くし一時は引退さえも考えていたが、300人以上の組員を路頭に迷わす訳にはいかないと気力で極道を続けていた方であった そんな失意のなか高戸と出会い、顔や背格好が息子さんに似ていた事などから彼を一目で気に入ったのである この物語の先の話しではあるが、やがて高戸は林野会長との盃を直して井田親分と親子盃を交わした もちろん、高戸の親だった林野会長も快(こころよ)く了承しての縁組みだ 更に両親の居なかった高戸は、戸籍上でも井田親分と養子縁組をし井田親分の実子となったのだった
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