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赤いリボンを急いで結び、華澄は部屋を飛び出た。
「お母さんこれでいい!?」
「いいから早く行きなさい!!」
背中を押され華澄は革靴を履いて玄関のドアを開けた。
華澄は最近この近辺に引っ越して来た。そのため高校に通えないとなり、引越先の近くにある私立 聖十字架(セントクロス)学園に転入届けを出した。
聖十字架学園は幼等部・初等部・中等部・高等部に別れた名門女子校。
それなりにお金もかかるわけだが、華澄は母から「支援を頂いた」としか言われていない。
初っ端遅刻しそうな華澄はそんな疑問を考えている余裕もなく、ひたすら道を走っていた。
あと5分、この距離なら間に合うと確信した華澄は一気に走り込む。しかし十字路を横断した瞬間…
「きゃあっ!」
運悪く人にぶつかってしまい、華澄は弾かれた。…と思ったのもつかの間、身体は地面に倒れる事なく、誰かに支えられている。
「怪我は…なかった?」
「え…?」
華澄はぱっと顔を上げた。
背の高い、整った顔立ち。日の光の屈折でコバルトブルーに見える少し長い髪。後ろで結んでいるらしい。
彼は華澄を見ていた。華澄は今の事態に気付き顔を火照らす。
「えっ…あ…大丈夫れす!!!!」
「ならよかった」
少し微笑んだような仕種をすると、華澄からすっと離れた。
「それじゃ…」
「待って!…あの…お名前は…?」
背を向けていた彼はくるっと華澄に顔だけ向け、
「王子様さ」
また少し微笑んだような仕種をすると走っていってしまった。
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