(猫)

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その日はとにかく暑かったのを覚えている。 数メートル先が歪んで見えてしまうくらいにジワジワとした暑さだった。 無駄に高い位置にそびえ立つ俺が通う高校の帰り道。 部活に所属していない俺は、部活動へ勤しむ健全な高校生をしている友人達に別れを告げ、長い長い下り坂を歩いていた。 この向日坂高校において部活に所属していない人間は極少数であり、俺はそんな極少数派の一人であり、つまり周りには俺の他に下校している人間など片手で足りるくらいの人数もいないくらいだった。 『そこの小僧』 ひどく嗄(しわが)れた、俳優のような渋い声が聞こえた。 振り返ると、猫が一匹、ちょこんと存在していた。 『そう、お前じゃ』 続けざまにそう聞こえたが、お前じゃも何も、俺の目の前には猫しかいないわけで、とうとう暑さにやられたかと思いつつ、ついでに病院によって行こうかと思いつつ、「………気のせいか」などと呟き、再び歩を進めるのだった。 『無視するなっ!』 右足のふくらはぎのあたりに鋭い痛みが、制服越しに伝わってきた。
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