1章 「煤けた夜の星」

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 きっと元木には、一人の女性を愛する事は出来ないのだろう。都会の星の様に目に付きやすく、分かりやすい輝きしか見ていないのだから。  僕は顔に濁った色を乗せないように愛想良く笑うと、元木が掌を掲げる。僕は心の中で溜息を吐いてから、元木と再会を祝して、したくはないハイタッチをしたのだ。 「よう元気だったか! 昭彦」 「あぁ、卒業してから何一つ変わりはない、退屈な大学生活を送っているよ」  僕が苦虫を摺り潰したかのような苦笑を浮かべて言い終わると、元木は自分から聞いてきたのに、興味なさそうに話をスルーさせ、自分の事を話し出したのだ。 「聞いてくれよ、俺、二週間前に良い女見つけたんだよ」  また、元木の自慢話が始まった。二十歳を越え、多少なりには変化は有るだろうが、基本的な性格が急に変化する訳なく、コイツはコイツなりに、自分と言う形を保ち続けているようだ。元木はニヤニヤしながら話しを続けた。 「でもさ、なかなか落ちなくってさ~ 毎日通いつめて、昨日やっと約束を漕ぎ付けたんだよ」  何故この男がモテるのだろうか。僕には理解出来ない魅力が有るとでも言うのだろうか。チャラくって軽薄で、女性など性欲処理マシーンとしか思ってない筈だ。でもモテるのだから不思議だ。所詮女性の恋愛基準なんて、そんなもんなんだろう。顔が良くって、話がそこそこ面白いみたいな。優しくって実直で真面目な男なんて、きっと一緒に居るだけで息が詰まり、面白味も無く物足りなさを感じるのだろう。本当に嘆かわしい世の中だと思う。  僕は元木の話に興味を持ったふりを見せる為、必要以上に大げさなリアクションを見せて答えた。
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