1章 「煤けた夜の星」

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「うそ~ マジで! 元木が口説いたんだから、美人なんだろうな。元木が羨ましいよ」  自分で反応を返して置いてやり過ぎたと後悔する。きっと演技臭かっただろう。元木が不快な想いになってないか心配しながら、元木の表情を伺いながら反応を待った。しかし、心配する必要は無かったようだ。つくづくこいつが本当に馬鹿で助かる。元木は僕の裏の顔など、全く気付かずに、嬉しそうに話を続けたのだ。 「すげ~ 可愛いんだよ。運命…… いや、俺達は出逢うべきして出逢った。正に宿命だね」  確かに、元木が言うように出逢いは不思議だ。僕らは那由多に広がる星の様に存在する命の光の中から一つだけを選び、大切に育もうとするのだから。しかし、僕らが一生涯に出会う人など都会の星空と同じで、高がしれているのでは。そんな狭義な世界で、何故その一つの輝きが運命や宿命と言えるのだろうか。簡単に運命や宿命と言う言葉で纏める人間が不思議に思えたのだ。  僕が愛想よく笑いながら話を聞き流していると元木は急に大きく手を挙げ、振り出したのだ。  白いファーストフード店の階段を静かに淡々と登る細身の女性。艶のあるセミロングの髪の毛を揺らし、ブラックのワンピースの肩から、彼女の体格には似合わないサイズの、大きな鞄が下げられていた。 「可愛いだろ」  元木はニヤ付いた瞳で僕の耳元で囁く。まるで腹を空かしたおとぎ話に出てくるオオカミが、涎を啜る音を聞いた気がした。
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