第一節『月夜』

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「ニャー」 突然の鳴き声に女はビクリと身震いをした。 足元には何時からそこにいるのか、一匹の黒猫が佇んでいる。 「いつの間に?」 女は不思議に思いながらも、しゃがみ込み猫の頭に触れる。 「ひっ!!」 触れた瞬間女は悲鳴をあげた。 氷の様に冷たい…。 そう、その猫には体温が無かったのだ。 しかし…、眼下のその猫は何かに向かって鳴いていた。 その方向…女は恐る恐る自分の背後に視線を移す。 そこには………。 影があった。 人影が。 暗くてよくは見えないが、確かに誰かがそこに立っている。 背格好からして成人した男性のようだが。 何も言わず、まるで幽霊の様にそれはそこに佇んでいた。 「あの…」 不安を拭い去るように、女は影に話し掛ける。 「……どうして?」 その問いに、それは小さく、か細い声で答えた。 「………どうして?逃げるんだい?」 その影はそんな事を口にしながら、ゆっくりと近づいてくる。 やばい、危険だ。 女は本能でそう悟ったが、金縛りにあったように身動きがとれない。 その間にも、影は女へと歩を進める。
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