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「間一髪ってところね」
突如現れた七瀬は、夜斗の側に立ちそう言った。
その横には朔鵺の姿もある。
しかし、安心したのもつかの間、光の腕は七瀬が張った結界すらも喰らおうとしていた。
「朔鵺!」
七瀬の声に答え、朔鵺は瞬時に葛葉の元へと移動した。
「我は願う闇を封じる力を…この手に…」
印を結びながら七瀬が唱えると、右の手が青白く光る。
その手を七瀬は十六夜にかざした。
例え様のないうめき声をあげ、光の腕はもがきながら十六夜へと吸い込まれていく。
「あんた…何者なんだ?」
その行為を見ていた夜斗が尋ねるが、七瀬は答えないまま奴の方を見た。
「和馬君…そんな姿になって…」
哀しそうに七瀬は言う。
「君の相手をしたいけど、急いでるから…」
少し目を伏せながらそう言うと、七瀬は右手を夜斗に、左手をルヴァと玉麟に向けた。
「朔鵺、飛ぶわよ」
『少々手荒くなるが辛抱してくれ』
七瀬の言葉を聞いた朔鵺は、そう言って謝ると葛葉の回りに結界を張った。
「和馬君…哀しみに飲まれては何も解決しない…。
君の運命はこんなものではないはずよ…」
光が体を包み込む中、七瀬は優しくそう言った。
気が付けばこの一室に残されたのは奴…和馬のみ。
割れた窓から入る夜風は、優しく和馬の頬を撫でた。
そんな中、和馬は弥生の事を思い出していた。
紅い瞳からは一筋の涙。
彼の中に遺された、一握りの理性。
その証に、和馬自身、気付くはずもなかった。
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