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近づいてくるにつれ、薄明かりにそれの姿は照らされた。
ボロボロになった茶色のコート、ボサボサの髪、そして…鎌の様に伸びた爪、紅く光る瞳。
人の形をしてはいるが、それからは人の気配はない。
例えるなら獣。
お伽話に出てくる怪物。
そういう表現が正いであろう。
女は全てを後悔した。
何故あの時、人通りの多い道を選ばなかったのか。
なぜ、些細な事で彼氏と喧嘩をしてしまったのか。
ずっと自分を追って来たのはこいつだったのだ。
全てを悟った女は、恐怖よりも諦めに近い感覚になった。
いや、諦めではない、現実逃避。
これは夢なんだ。
目を覚ませば、きっといつもの様に自分の部屋にいるはず。
いつもの様に、仕度をして、いつもの様に出社するんだ。
そんな女の逃避を醒ますように、それは叫ぶ。
誰かの名前を。
次の瞬間、それの右手が振り下ろされる。
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