とある喫茶店。

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「大変だ、もう小麦粉が切れそうなんだが」 「……昨日、倉庫に置いたんだが?」    相変わらず此所のマスターとその奥さんの会話は愉快だ。   一見、凜とした隙のない美人に見える奥さんだが、彼女は軽く天然の気があるらしく、そのギャップが実に可愛らしいと近くの男子学生からは人気が高い。   マスターもマスターで、体付きから誤解されやすい(近所の公園で人さらいに間違われたりもしたらしい)が、中身は細やかな心配りができる優しい人だ。       最近では雑誌に紹介されたとかで、週末にはかなり店が忙しくなるそうだ。     「相変わらず仲が良いですねぇ……」   そう私が呟くと、二人そろって赤面した。……結婚五年目の夫婦から惚気られるのにもいい加減慣れた。   全くご馳走さまですよ、こちらと女っ気の欠片もないのに。 そう思いながら見詰めると二人の顔はますます赤くなる。       「そ、そんなことよりお前は今どうしてるんだ!? この前はなんか襲われたとか言ってたじゃないか?」   思いっ切り話を逸すつもりのマスターだが、もう可哀相な位真っ赤なのでそれに乗る事にする。   「ああ、なんか今度は南米辺りで新興勢力が出て来たらしくてその影響みたいです」   「大丈夫なのか?」   「ま、なんとかなってますよ。……ご馳走さまです、珈琲旨かったですよ」   私はマグカップを机に置いて立ち上がる。    「…………また、来いよ?」   「分かってますよ、正輝さん。あ、リィネさん、ケーキ美味しかったです」   「それは良かった。では、またな」   「ええ、それでは失礼しました」           喫茶店のドアを開けると、雨上りの街は穏やかな気配が漂っている。 ふと、空を見上げると、そこにあるのは目にも鮮やかな蒼空。     ――あと少しで、夏が来るだろう。
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