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苔むして薄汚れた石畳の道。
その両脇に連なる石造りの家も、どこか薄汚れて、町全体を陰鬱な表情に見せている。
人影は無く、家の中からひそひそと聞こえてくる話し声や衣擦れの音で、漸く命あるものの存在が示されているだけだった。
その道のずっと向こうに目をやる。
町の外れに向かうに従い、そんな、廃墟のような家すらも、その姿を疎らにしか見せなくなる。
代わりに、町の向こうに見える真っ黒な『森』が、石畳の道を飲み込んでいる。それは、町をも飲み込まんばかりに覆いかぶさってくるかのようだった。
悪意の塊のように、視界を奪う森から目を反らす。
振り返り、今度は町の中心部に目をやる。
今見ていた景色は幻だろうか? そこには、賑やかな露店が軒を並べている。
行き交う人の群れ。
商品を売る商人の威勢の良い声。
喧騒。
命が溢れ返っている。
その露店の背後に、聳え立つ『城』。
きらびやかに壁を着飾ったその建物は、城と呼んでも遜色の無い物だった。
この町を支配する、一部の富裕層が住んでいる。
そして、彼らは、商人達が商売で得た利益の殆どを吸い取り、さらに富を得ているのだ。
富める者はさらに裕福に。
そうで無い者は、どうにかその生活を維持して、命を保っている。
町の住人は、この三層で構成されていた。
いつからだろう?
空には暗澹たる雲が垂れ込めている。
私の記憶する限りずっとだ。
そこから、青い瞳の美しい女性が顔を覗かせる日は、二度と来ないのかも知れない。
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