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君の音
目覚めを呼んだのが、パタパタとベランダの軒を叩く雨の音だったのか。炊飯器から漏れ出した、炊き上がる寸前の匂いだったのか、低く低くボリュームを抑えられた、君のお気に入りの曲だったのか……。
とにかく、夢うつつの僕は、耳と鼻と肌で、今日の天気と今の時間を感じ、どこで寝ているのかを察することができた。
軽い心細さ。寝返りで君を探す。そうして見つけた君の枕に顔を押し付けて、募る愛しさを噛み締める。
洗濯機が脱水を始めた音。雨の音。炊飯器から蒸気が抜ける音。微かなバラード。快適な風をくれるエアコンの音。
適当に見当を付けて、薄く目を開けてみる。その瞬間、僕の耳は全ての音を遮断した。
君の左手には文庫本。右手でこめかみを押さえ、微かに震える頬を流れる一筋の煌めき――。
「来ると思ってた」
明け方近く、何の連絡もしなかったのに、当然のように鍵を開けてくれた君。酒臭い僕。
また、君の枕に顔をうずめた。もう少し、裸の僕は微睡んでいよう。
バラード。洗濯機。エアコン。君が鼻をすする……。
雨の音……。
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