葛城林檎

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 そう幸せな世界。勉強もしなくて良い。 仕事もしなくて良い。 1日遊んでいても良い。 ただ、外に出るのは不可能で、食事は1日に1食。 働かなくても生きて行ける。 自由な時間が沢山あった。 生きるのも自由。そして死ぬのも自由な世界。 飢えて死ぬのか、友達を騙して売るのか。 友達を10人売れば生きて出られる。 その10人は代わりに苦痛を味わう事になる。 だが、林檎はそれをしなかった。 友達にこんな生活を送ってほしくない。 それにこれは夢の世界。 夢から覚めれば……。 その希望は儚く打ち消された。 「パンをよこせ! アンタは昨日来たばかりでしょ! 私はもう1ヶ月もここにいるの!」  飢えて骨と皮のようになった女が林檎の腕を掴んだ。 力はたいした事はないが、伸びきった汚い爪を林檎の腕に食い込ませた。 「痛い! 何をするのよ! 離して!」 林檎は全身を使って、飢えて狂った女性を突き飛ばした。 自分の腕を見るとそこには肌がひっかかれ、赤い血が出ていた。 真っ赤な血が。そして激しい痛みが彼女を襲う。 これは夢じゃなかった。 希望は絶望に変わっていった。 ただ待っていても、 憧れの先輩は来ない。 王子様は現れない。 ならば呼べばいい。 例え地獄に落ちる運命だとしても。 愛しているなら、地獄も天国となろう。 このような地獄のような場所でも。 十分な食事も与えられないこの場は、さしずめ地獄の中の餓鬼道。 餓鬼は飲んでも食べてもその空腹感覚は満たされない。 林檎から毎日半分のパンを奪う女のように。 林檎は、日に日に痩せていった。
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