121人が本棚に入れています
本棚に追加
そう幸せな世界。勉強もしなくて良い。
仕事もしなくて良い。
1日遊んでいても良い。
ただ、外に出るのは不可能で、食事は1日に1食。
働かなくても生きて行ける。
自由な時間が沢山あった。
生きるのも自由。そして死ぬのも自由な世界。
飢えて死ぬのか、友達を騙して売るのか。
友達を10人売れば生きて出られる。
その10人は代わりに苦痛を味わう事になる。
だが、林檎はそれをしなかった。
友達にこんな生活を送ってほしくない。
それにこれは夢の世界。
夢から覚めれば……。
その希望は儚く打ち消された。
「パンをよこせ! アンタは昨日来たばかりでしょ! 私はもう1ヶ月もここにいるの!」
飢えて骨と皮のようになった女が林檎の腕を掴んだ。
力はたいした事はないが、伸びきった汚い爪を林檎の腕に食い込ませた。
「痛い! 何をするのよ! 離して!」
林檎は全身を使って、飢えて狂った女性を突き飛ばした。
自分の腕を見るとそこには肌がひっかかれ、赤い血が出ていた。
真っ赤な血が。そして激しい痛みが彼女を襲う。
これは夢じゃなかった。
希望は絶望に変わっていった。
ただ待っていても、
憧れの先輩は来ない。
王子様は現れない。
ならば呼べばいい。
例え地獄に落ちる運命だとしても。
愛しているなら、地獄も天国となろう。
このような地獄のような場所でも。
十分な食事も与えられないこの場は、さしずめ地獄の中の餓鬼道。
餓鬼は飲んでも食べてもその空腹感覚は満たされない。
林檎から毎日半分のパンを奪う女のように。
林檎は、日に日に痩せていった。
最初のコメントを投稿しよう!