2832人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の耳を疑った。
正確には耳でもない。じゃあ、何なのか、と問われても俺はその答えを持っていなかった。
ただ、言葉をなくして華月(かづき)と顔を見合わせるしかなかった。
「颯(そう)。あたしのほっぺた、つねって」
華月の言うとおり、目の前のそれから目を離さずに、華月の頬を軽くつねった。
小さく、うっ、という華月の声が聞こえる。
「痛い?」
「痛い……」
華月はとても痛そうに自分のほっぺたを擦っている。
「……なんか俺もほっぺた痛くなってきた……」
「颯のほっぺ、私つねってないって」
「そうだけど。なんとなく」
そう言って俺も、自分の頬を手でさすった。
「ねえ、颯」
「うん、かづ」
信じられる? と言いたげな華月の顔が横にあった。
いったい、何がどうしてこうなってるんだろう。
というか、今何が起こった?
信じられないけど、でも、俺だけが聞いたんじゃない。華月もちゃんと聞いていたのは華月の反応から明らかだ。
最初のコメントを投稿しよう!