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横断歩道の向かい側から勢いよく走ってきた自転車が、“それ”をよけ切れないと思ったのだ。
反射的に華月はそれを拾い上げようと、自転車の前に立ちふさがったのが見えた。
彼女の反射神経は父親譲りで、それはこんな時はとっても役に立つ。
役に立つのだが……間一髪、自転車をやり過ごしても、華月の体は横断歩道から車道に転げ出てしまおうとしていた。
「華月!」
とっさに、俺は華月の腕を力いっぱい自分の方へ引っ張り寄せた。
「……あっぶね~……」
タッチの差で、華月と前方から走ってきた車との接触は免れた。
たぶん、今、俺の顔を鏡で見たら、真っ青に違いない。
「危なかったね!」
華月は、俺の腕の中で、そう言った。
それと同時に俺は、血の気の引く音が聞こえた気がした。
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