1・猫の恩返し

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横断歩道の向かい側から勢いよく走ってきた自転車が、“それ”をよけ切れないと思ったのだ。 反射的に華月はそれを拾い上げようと、自転車の前に立ちふさがったのが見えた。 彼女の反射神経は父親譲りで、それはこんな時はとっても役に立つ。 役に立つのだが……間一髪、自転車をやり過ごしても、華月の体は横断歩道から車道に転げ出てしまおうとしていた。 「華月!」 とっさに、俺は華月の腕を力いっぱい自分の方へ引っ張り寄せた。 「……あっぶね~……」 タッチの差で、華月と前方から走ってきた車との接触は免れた。 たぶん、今、俺の顔を鏡で見たら、真っ青に違いない。 「危なかったね!」 華月は、俺の腕の中で、そう言った。 それと同時に俺は、血の気の引く音が聞こえた気がした。
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