1・猫の恩返し

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「颯。あたしのほっぺた、つねって」 頭が真っ白になっている俺に、華月がそう言った。俺は、それ、から視線をそらさないで、華月の頬を軽くつねった。 「痛い?」 「ありえないくらい痛い……」 華月はとても痛そうに自分のほっぺたを擦っている。 「……なんか俺もほっぺた痛くなってきた……」 「颯のほっぺ、私つねってないって」 「そうだけど。なんとなく」 そう言って俺も、自分の頬を手でさすった。 「ねえ、颯」 信じられる?と言いたげな華月の顔が横にあった。 「うん、かづ」 いったい、何がどうしてこうなってるんだろう。 というか、今何が起こった? 信じられないけど、でも、俺だけが聞いたんじゃない。華月もちゃんと聞いていたのは華月の反応から明らかだ。 つまり。 今、この目の前にいる……。    「この猫、しゃべったよね」   二人の声が、重なった。 目の前のそれ、つまり猫は、俺たちを見上げながら、ふにふにと白いしっぽを動かしている。何事も無かったように。 でも、間違いではないようだった。 確かに、“聞こえた”。 ─── オマエニ カシテヤル と。  
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