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「颯。あたしのほっぺた、つねって」
頭が真っ白になっている俺に、華月がそう言った。俺は、それ、から視線をそらさないで、華月の頬を軽くつねった。
「痛い?」
「ありえないくらい痛い……」
華月はとても痛そうに自分のほっぺたを擦っている。
「……なんか俺もほっぺた痛くなってきた……」
「颯のほっぺ、私つねってないって」
「そうだけど。なんとなく」
そう言って俺も、自分の頬を手でさすった。
「ねえ、颯」
信じられる?と言いたげな華月の顔が横にあった。
「うん、かづ」
いったい、何がどうしてこうなってるんだろう。
というか、今何が起こった?
信じられないけど、でも、俺だけが聞いたんじゃない。華月もちゃんと聞いていたのは華月の反応から明らかだ。
つまり。
今、この目の前にいる……。
「この猫、しゃべったよね」
二人の声が、重なった。
目の前のそれ、つまり猫は、俺たちを見上げながら、ふにふにと白いしっぽを動かしている。何事も無かったように。
でも、間違いではないようだった。
確かに、“聞こえた”。
─── オマエニ カシテヤル と。
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