約束

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 その時僕は、少女にぴったりの名前だと思った。  月の中から現れた月子。  まるでそれは、お伽話でも読んでいるみたいだった。 「月子は何しているの?」  僕はいち早く言葉を送った。  すると月子は僕を見つめ「遊んでるの」と、応えた。  僕ら五人は『え?』と、耳を疑った。 「公園だもの。遊んでいるに決まってるじゃない」 「ひとりで?」  義人が聞く。 「そう、ひとりで」 「どうして?」 「遊びたいから」  そんな時、司が「僕、時間だから…」と言い、駅へと駆け出した。 「え?あ、ホントだ。じゃ、また明日!」と、義人が手を振って走っていく。  次いで智史も「じゃ、僕も…」と言い出した。 「ああ、僕も明日の予習があるから」と、慎也が呟く。  結局二人は駅に向かって歩き出した。 『関わりたくない』  あの四人はそう思っているのかもしれない。と、僕は思った。  四人がいなくなった藤棚の下のベンチに、僕はひとりで座っていた。  月子は向こうで、ブランコを漕いでいる。  僕はそうして暫く月子を見ていた。 「ねえ。今度はいつ、ここに来る?」  僕はベンチを立つと、月子の傍に行き、聞いた。  月子はブランコをザザッと止めると、僕の顔を真っすぐに見つめて 「月が出たら、ここにいるわ」と、言った。 「月の夜に、だね」 「ええ…」  月子はにっこりと笑うと、細い手でブランコの鎖をしっかりと握り、今にも折れそうな足で地面を蹴った。  それは、僕と月子の約束だったのかもしれない。  僕は明日の夜も、月が出ればいいと思いながら、駅へと向かった。
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