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塾が終わると公園へ行き、少しの時間、僕らはいろいろな事を話し合う。
それが日課だった。
解らなかった問題。気に入らない先生や同級生の悪口。ゲームの攻略法。
僕らの睡眠時間は、大人たちよりもずっと短い。
「おい健生。夕べあれからどうした?」
慎也が、筆記用具を片付けている僕に声かけた。
「すぐ、帰ったよ」
「ふぅ~ん」
「なんで?」
「いや、別に。なんか、奇妙な子だったろ。…あ、月子とか言ってたけど。変だよな。月が出てたから、適当なこと言ってんじゃないか?」
慎也は、鼻で笑っていた。
僕らは、塾の教室を出ると、ビルの出口のところで五人になる。
そして足は自然に公園へと向かう。
「月子って言ったっけ?昨日の女の子。今日もいたりしてな」
義人が、ははっと笑った。
「いるさ。今夜もいる」
僕は、そう言うと夜空を見上げる。
夕べと同じ月が、僕らを照らしていた。
「なんだ健雄。いやに自信あるじゃないか」
慎也が僕の顔を見た。
僕は得意げな目で慎也を見返す。
『みんな考えていることは同じだ。月子の事が気になっているんだ』
僕は、心の中でそう考えると、月子との夕べの会話を思い出していた。
あれは、僕と月子と二人だけのことで、誰も知らない。
ただ、それだけのことなのに、僕の心の中には今日も月子がいるという自信が満々と溢れていた。
公園に着くと、いつもの藤棚の下へ行く。
なぜか今夜は、皆無口で、辺りをキョロキョロ見回している。
月子を捜しているんだ。
それは僕も同じだった。
けれど、月子の姿は見えなく、次第に僕らはいつものように喋り始めた。
月が、静かに、煌々と夜を照らし続けている。
僕はふと、ジャングルジムを見つめた。
大きな月が、その天辺に座っている。
僕は、月子の影がないのを見ると、ため息をついた。
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