ため息

2/2
前へ
/30ページ
次へ
 塾が終わると公園へ行き、少しの時間、僕らはいろいろな事を話し合う。  それが日課だった。  解らなかった問題。気に入らない先生や同級生の悪口。ゲームの攻略法。  僕らの睡眠時間は、大人たちよりもずっと短い。 「おい健生。夕べあれからどうした?」  慎也が、筆記用具を片付けている僕に声かけた。 「すぐ、帰ったよ」 「ふぅ~ん」 「なんで?」 「いや、別に。なんか、奇妙な子だったろ。…あ、月子とか言ってたけど。変だよな。月が出てたから、適当なこと言ってんじゃないか?」  慎也は、鼻で笑っていた。  僕らは、塾の教室を出ると、ビルの出口のところで五人になる。  そして足は自然に公園へと向かう。 「月子って言ったっけ?昨日の女の子。今日もいたりしてな」  義人が、ははっと笑った。 「いるさ。今夜もいる」  僕は、そう言うと夜空を見上げる。  夕べと同じ月が、僕らを照らしていた。 「なんだ健雄。いやに自信あるじゃないか」  慎也が僕の顔を見た。  僕は得意げな目で慎也を見返す。 『みんな考えていることは同じだ。月子の事が気になっているんだ』  僕は、心の中でそう考えると、月子との夕べの会話を思い出していた。  あれは、僕と月子と二人だけのことで、誰も知らない。  ただ、それだけのことなのに、僕の心の中には今日も月子がいるという自信が満々と溢れていた。  公園に着くと、いつもの藤棚の下へ行く。  なぜか今夜は、皆無口で、辺りをキョロキョロ見回している。  月子を捜しているんだ。  それは僕も同じだった。  けれど、月子の姿は見えなく、次第に僕らはいつものように喋り始めた。  月が、静かに、煌々と夜を照らし続けている。  僕はふと、ジャングルジムを見つめた。  大きな月が、その天辺に座っている。  僕は、月子の影がないのを見ると、ため息をついた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加