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一ヶ月もした頃。
突然誰かが言い出した。
「月子って、どこの学校に行ってるんだろう?」
そう言われてみて、僕は改めて月子の事を知らない事に気がついた。
僕らは、月子の事を何も知らなかったんだ。
不思議と、誰もそんな事を聞かなかったし、聞くような雰囲気でもなかった。
ひとつの疑問は小さな灯りをともして、それは僕らの心の中で次第に大きくなっていった。
『月子の事が知りたい』
誰もが心の中でそう思っていたに違いない。誰も口にはしなかったけど…。
「後をつけてみようか?」
慎也が少し小声で、けど、目を輝かせて言った。
「え…でも…」
智史は、口ごもりながらも『賛成』の表情。
「けど、月子は僕らよりもずっと遅くまであの公園にいるんだろう?無理じゃないのか?」
義人がやけに現実的な事を言う。
司は…「遅くなるんじゃ、困るよ」と、呟く。
「健雄は?」
慎也の声で、四人が僕を見る。
「…関係ないじゃないか。月子が誰だって。何したって。僕らには関係ないよ。……月の夜に月子はやってきて、あの公園で僕らと遊ぶ。それだけでいいじゃないか」
僕は、語尾を少し荒げて言った。
沈黙が漂う。
「…けど、健雄だって、本当は知りたいんだろう?」
慎也はあくまでも、最初の意見を通したいらしい。
「僕は、今のままでいいと思うよ」
僕ははっきりとそう言った。
慎也が、チェッと舌を鳴らした。
そして僕らは公園へと向かう。
公園について、暫くすると月子はやって来る。
僕らはいつものように月子と遊ぶと、いつもの時間に月子に手を振り駅へと向かう。
けど…慎也は、公園の出口の茂みに身を隠すと、月子の事を見つめていた。
「なんだよ。そんなのやめろよ」
僕は少し怒りながら言った。
「いやなら、帰ればいいじゃないか」
慎也は、僕の顔を見上げると、月子の方へと目を移した。
「僕…帰るから」
と、司は言うと、ひとりで歩き出した。
智史と義人が、顔を見合わせ、どうしようかと迷っているようだった。
僕は反対したくせに、足が地面に吸い付けられてしまったかのように動かなかった。
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