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少女は花畑を眺める事の出来るベンチに腰を落ち着けていたが、その雰囲気は以前の物とは違った。
私は彼女を一目見ただけで背筋が凍りついてしまったのだ。
彼女の表情は能面の様だった。
無感情でかつ無表情。
あの純粋なまでに熱心な志は微塵も感じられず、代わりにひんやりとした空気を身に纏っている。
少女は私の姿に気づくと、冷徹さを感じさせる笑みを浮かべて口の端を吊り上げた。
「夢は叶いましたか?」
少女の瞳は曇りがかっていた。
「ああ、知ってしまったのか」私は応える代わりに心の中で呟いた。
彼女が何を知ってしまったのかは私にはわからないが、「現実」を知ってしまった事だけは理解出来る。
そして、あの透明で純粋な硝子は、非情なる者の手によって穢されてしまったのだろう。
「私の夢は、もう叶いそうにないです」
冷淡に語るが、感情を押し殺して喋っているのがわかるほど、彼女の姿は痛々しく感じられる。
夢を奪われた事によって心を閉ざした彼女は、もう清らかではなくなっていた。
一心不乱にスケッチブックに何かを描き込んでいるが、その様子は鬼の様であった。
そう、私の目の前にいるのは鬼だ。
鬼が嘆き、現世を呪う姿が見える。
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