失望の場

5/6
前へ
/23ページ
次へ
 けれども、それは真実となって周囲の景色を変え始めた。  一つ一つ、儚く散り始める草花。  ぽつりぽつり、スケッチブックを湿らせる彼女の涙。  暖かな大地は、冷ややかな感触のあるアスファルトへと姿を変える。  彼女の表情から、夢や希望どころか、憎悪や悲しみも消えてしまった。 「夢を叶えたいと願う、それこそが私の存在意義だったの……」  甘く、切ない、夢を見るようなささやきは、  鬼のものとは思えない程可憐な嘆きであった。  少女は周りの風景と共に飲み込まれていった。  後に残されたのは、少女の書き綴ったスケッチブックのみ。  少女が居なくなった後、灼熱の太陽は彼女の持つスケッチブックを照らした。  彼女の涙によって濡れ、太陽の光によって浮き出された絵。  それは私が過去に強く願っていた夢だった。  冷たい無機質な絵の裏に隠されていたのは、  狂気的なまでに夢を渇望する思いだったのだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加