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夢を手放しかけた私は、
果たしてどのような瞳をしているだろう。
少なくとも、
彼女の様に真っ直ぐではないはずだ。
彼女の瞳とは相対する、
怨念を撒き散らす邪悪な存在が私の瞳なのだろう。
私の心は絶望と言う名前の深海にとうに浸かってしまい、
海面で揺らぐ光に向かって手を伸ばしても届く事はない。
そう、暖かな彩色を放つであろう少女のスケッチブックの様な色は見えそうにないのだ。
ふと少女が私の存在に気づき、上目遣いに私を見つめた。
「どうですか?この絵。
ちゃんとここの暖かい雰囲気が描けてますか?」
そう言って微笑む彼女の瞳は、やはり透き通っていた。
その目を抉り、私の目に当て嵌める事が出来れば、
私も彼女と同じ様に純粋な目で物を見通す事が出来るようになるのだろうか。
否。
心を侵してしまった人間が、純粋な物しか見た事の無い清純な瞳を嵌め込んだとしても、
見る対象物は差し替え前と変わらず、判断する翻訳機も同様なのだ。
清純と言う名のフィルターを通しても、
私の穢れた心は浄化された物を醜い姿に元通りにさせてしまうだろう。
彼女の瞳は、
彼女が持ち得てこそ価値があるのだ。
少女は私にスケッチブックを渡した。
観てくれと言う事だろう。
清らかな心で、透き通った目を通して、映し出された真実は、
どの様に見えるのだろう。
私は一枚一枚ページを吟味していった。
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