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「とても綺麗だね。
純粋な人は、
こんなにも暖かい絵を描けるんだな」
私はそう返事をした。
嘘偽りの無い言葉だが、
その言葉には足りない物があった。
「でもどこか寂しいね」と、言うことが出来なかったのだ。
「私、ここの風景を描くのがすごく好きなんです」
少女はそう言って、私が返したスケッチブックを両手で受け取って微笑んだ。
「うん、そんな気持ちが感じられるよ」
眼差しからも、絵からも、
真っ直ぐな彼女の熱意が感じられる。
「ずっとここで絵を描き続けていくのが夢なんですよ」
「ああ、この少女は以前の私にそっくりだ」と思った。
夢を追いかける姿勢、
絵から滲み出す真剣さ。
けれども私は、
この絵のどこにも存在しない「現実」に打ちひしがれて、
夢を手放そうとしていたのだ。
彼女はいずれ、
現実を目の当たりにして、
絶望してしまうのだろうか。
この切なくも純粋な瞳は、
大人達によっていとも簡単に穢されてしまうのだろうか。
そうだとしたら、
世の中はなんと非情なのだろう。
それとも彼女自身がそれに気づいているからこそ、
無機質な物体をあえて描かなかったのだろうか。
人々が生み出した物を描く事によって、
彼女は「現実」を認めてしまう事になるのだろう。
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