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「貴方が背中を向けている方の森、道になってる所を半日位歩きなさい。そうしたら朱い花が咲いてる場所があるから、そこで自分の今後でも考えると良いわ。暫く考えても答えが出なかったら、もっと奥に進むと楽になるかもね」
女性に言われ、少年は後ろへ振り返る。木々の間に、微かではあるが人の通った形跡が確かに残っていた。
「それと、夕刻になると人非らざる者――妖怪の天下になるから気をつけなさいな」
女性へと視線を戻す。
相変わらず傘に隠れて表情は伺えないが、心なしか口調は楽しげに少年は感じた。
「――感謝シマス」
「当然」
「許シテ頂いタ事モ」
「それも当然ね」
「貴女に出会エタ事モ」
「まあ――当然、かしら」
奇妙な問答にお互いが苦笑する。
そして話は終わりだと、女性はゆっくりと歩き出した。
少年も去っていく女性に会釈し、教えられた場所へ振り向こうとした時。
「――ああ、そういえば一つ言い忘れてたわ」
何か思い出したように、女性は声を上げた。
それに釣られ、少年も道に向けようとした視線を再び女性へと戻す。
そして待っていたように、女性はゆっくりと少年へ振り返った。
女性の緑髪がゆらりと揺れ、紅い瞳が少年を映す。
「ようこそ、幻想郷へ」
艶やかな微笑みを浮かべる女性は、恐ろしい程美しかった。
「歓迎するわ。少なくとも、私は――ね」
瞬間、突風が花畑を襲い、少年の視界は突風によって舞い散る花びらによって一瞬塞がれる。
突風が止み視界が明けると、さっきまで居たはずの女性は姿を消していた。
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