想い眠る幻想の地

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 道と呼ばれた茂みを掻き分けて幾時が過ぎたのだろうか。  同じような形の木の間をすり抜け、何本もの小川を跳び、それでも女性に言われたような場所は見えてこない。  木々の微かな隙間から零れる赤い陽射しが、もうすぐ闇夜だという事を少年に知らせ、人非らざる者達の時間になる事を思い出させた。  一定の速度を保ち道を掻き分けていくと、いつも視界に入れていた光景と違うものが映る。  蔦が絡まり苔も生え、今はなにを示しているのか解らない酷く古びた道標。最大限解るとすれば、それは少年が進む先に何かがあるという事だけだ。  恐らく女性の言っていた場所だろうと、少年は道標の指す方向へ歩を進めた。      道標の指す道を歩んで更に数刻、ついに朱い花の咲く場所に少年はたどり着いた。空を見上げると満天の星が夜空にちりばめられている。  見渡すと道の両端には朱い花が咲き乱れ、その奥には桃色の花を身に纏った木が一本立っていた。  少年にとっては名前も知らない花だが、不思議と何度も見て来たような気がして仕方がなかった。  近くまで行こうと、少年は朱い花の咲く場所に足を踏み入れる。  と、足元から花とは無縁な棒状の何かが折れる様な音がした。少年は踏み込んだ足を一歩下げ、踏み込んだ所を覗き込む。 ボロボロになった布――恐らく衣服であろうものを被った白骨化した遺体であることが確認できた。  覗くのを止め、そのままニ歩三歩後ろヘ下がる。今度は全体を眺める様に目を走らせた。  やはり、と言わんばかりに花々の間から白骨が垣間見える。ここは死体置場か何かだろうか。
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