想い眠る幻想の地

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 完全な夜になり、また数刻。  少年は女性に言われた通りに、自分の今後について考えを巡らせていた。    まず最初に、何故この場所を女性は口にしたのか。  恐らく数刻前に少年が目にした光景を見せて、生きる意志があるのか確かめるためではないのだろうか――という結論に至るが、言った当人の本意は謎のまま。  仮にそうであったとして、では自分に生きる意志は有るのか――と、少年は考える。  少女のために自らを贄にし、少女のために生きようとした自分。しかしその少女が存在しない今、少年は自身の意義を見出だすことが出来なかった。     『だからって此処に来たのかえ?あんさんも相当に馬鹿だねえ』      少年の思考を読んだ声が辺りに響く。それと同時に朱い花々の間から、 ふわりと青白い球体の様なものが現れた。     「――貴方ハ」     『あんさんと同じ様なもんさあ。死のう思うて海に身投げ、気がついたら彼岸花の海に身を投げてたぃ』      ふわふわと浮かぶ球体は、ケラケラと笑いながらその身をくるくる回転させる。  そして、回転しながら彼岸花と呼ばれた花々の海に消えていった。     『ここにゃあ、おいさんみたいな身投げした奴らがぎょうさん眠っとん。この世界の奴らも、おいさんと同じ他の世界の奴らも』      どうやら、ここは死を望む者達が呼び寄せられる場所らしいと、少年は頭に纏める。  そして先程出した考えは、やはり合っていたのかも知れないとも結論づけた。  しかし、少年には疑問が一つだけ残っていた。  自殺を図ったとしても、何故こうも朱い花の中に死体が有るのか。この朱い花に死者を寄せる何かがあるのか、それとも何者かが故意に花の中へ死体を移したか。どちらにせよ、少年はこの場所に居続けるのは危険だと感じた。  ならば、女性の言っていたこの奥へと進むしかないと、歩を進めた。
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