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朱い花の咲く場所から続いていた道が完全に無くなり、辺り一面を深緑が覆う場所に少年は辿り着いた。
唯一深緑が欠けている所には、彼が先程見た花を付けた樹がある。
さっきの樹とは種類が違うのか、こちらの花の色は紫がかっていた。
「楽ニなル、トアノ人は言ッテイマしタガ。コノ樹ニ楽ニなル何カがアるノカ、ソレとモ、全ク別ノ何カガアルノか――」
少なくとも、こんな場所に人が好んで来る事などないだろう。
人骨が無いことを願いながら、少年は一歩深緑へと踏み込む。
今回は草を踏む音と感触以外、余計なものはなかった。更にニ歩、三歩と深緑の奥にある樹に向かい足を進め、何の障害も無く少年は樹の元へとたどり着いた。
樹齢いくばくなのだろうかと思うほどその樹は皺深く、近づけば近づく程その存在感に圧倒されてしまう。
少年は手を触れ、ゆっくりと愛でる様にその樹を撫でる。すると、それに答えるかのように少年の元に花が多く咲いた枝が音も無く落ちてきた。
落ちてきた枝を見つめると、何故だろうか不思議と心静まるような感覚を覚える。
ふと、枝の先に何かがひっかかっている事に少年は気付いた。
枝に引っ掛かっていたそれを手にとる。髪飾りだろうか、随分前からひっかかっていたらしく、所々がボロボロになっているが、唯一中央に描かれている蝶の部分だけは傷一つ付いていなかった。
「髪飾リガ、何故コんナ所ニ。――ヤハリ、コの樹ニ何かガ」
少年は呟き、もしかしたらこの髪飾りの持ち主が眠っているのではないかと、月明かりを頼りに周辺を調べまわったが、 持ち主の遺体は愚か骨の一本も見つからなかった。
少年はもう一度樹に触れ、今度は扱い慣れた自身の魔力を使い、樹に変わった所がないか調べ始めた。
隈なく彼は樹を調べたが、やはりと言うべきか樹からは何も感知されなかった。
ならばなぜ髪飾りが、と少年は手にもっていた髪飾りに目を向けると、ある異変に気付いた。
汚れていない蝶の模様が微かに光っているのだ。
まさかと思い、少年はそれを樹に触れさせる。
途端に髪飾りはまばゆい光を放ち、辺り一体を覆い尽くしていった。
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