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『ああ、西行妖よ。もう二度と咲くことなかれ』
お気に入りの髪飾り、そして着慣れない死装束を着て、私は彼岸の道を行く。
死を呼ぶ桜――西行妖は、私の生と引き換えにその力を封じられた。
『ああ、西行妖よ。もう二度と生を奪う事なかれ』
そして死を向かえ、唯々たどり着いた彼岸の道を歩き続ける。
心残りが無いと言えば嘘になる。
現世に一人置いて来た彼女の事も、あの温かい日々と別れを告げる事も。
『ああ、西行妖よ――』
気がつけば、私は大きな桜の樹の前まで来ていた。
紫色に咲く桜は心なしか、迷いに揺らぐ私の心を静めてくれる。
『――ああ、西行妖よ』
ゆっくりと桜の樹に手を差し出す。
そして、何かに引き寄せられるように――私は樹に飲み込まれた。
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