事の発端

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 赤と黒、白と青、それらが渦巻きながら作り出された、上も下も解らない空間。そこに、低く淀んだ赤子の泣き声が響く。  事実、少女達の目の前には赤子が存在していた。5mを裕に超し、身体の所々に様々な表情の顔が浮かび上がった赤子が。     「赤子か。邪神と謳われている存在にしては、随分と可愛いものだな」      そう呟きながら、赤子の右腕に当たる場所へ一歩踏み出す男が一人。白髭を貯えた初老程の男は、ゆっくりとその両腕を広げ、赤子に向け意識を集中させる。     「私としては、えぐい魔物よりもこっちの方が苦手なんだけどねぇ――」      赤子を挟み、男の向かい側の位置に立つ女性。彼女はぼやきながらも、男と同じ動作を行う。  二人が左右から赤子を囲む形となり、その間――赤子の頭のもとへ、頭に巻かれた装飾用の布を揺らし、少女が踏み入った。     「さあ、始めましょうか。主役さん」      少女は女性の声にゆっくりと頷く。その後、ビキビキと音を立て少女の背中突き破り、衣服を引き裂き、血を撒き散らしながら人の指が顔を出した。  何千何万の指が少女の背中から生まれ、それが次第に翼として形を成していく。  翼が完全に形成されたのを確認すると、左右の二人は広げていた両腕を前に突き出した。           『『ギズモ・ギア・ギアズ』』     『禍つ光より生まれし者に命ず』     『汝、放たれしその力を』     ――封ぜよ――          二人が言葉を紡ぐと、赤子を押さえ付けるように光が集まる。  光によって押さえ付けられた赤子は、絶叫に近い 泣き声を上げた。     『アルム・エタ・セイレ』      少女はゆっくりと右手を掲げる。     『慈愛深き揺り篭よ、禍つ光より生まれし者へ命ぜ。汝、その放たれし存在を』         ――今一度、揺り篭の中へ納めよ――      
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