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「儀式は順調なようだな。では、こちらも始めようか」
男は、少女達によって赤子がゆっくりと光に飲み込まれて行くのを確認すると、後ろに控えていた少年へと振り返る。
全身に印字を刻み、四肢を鎖に繋がれている状態の少年は、儀式用の仮面で拘束された頭を縦に振った。
「それにしても、数奇なものだな君も。あんな少女と運命を共にしなければ、もっと良い生涯だっただろうに」
皮肉とも取れる言葉に、少年は首を横に振った。
「貴方ニトッてハ、数奇デあルカモしれマセん――シカし、私ニトっテは最高ノ幸セでシタよ。彼女ニ出会ッた事モ、彼女ヲ愛シタ事モ」
くぐもった言葉を返した少年の表情は窺えないが、少なくとも笑ってはいるのだろうなと、男は思い苦笑した。
「今の君は、少なくとも私の知っている君の口調でもないし、考え方もちがう。人格を壊されても愛し続けられるとは、なんともまあおめでたい――いや、羨ましい奴だよ、君は――」
男は、もう一度少女達の方向へ目を向ける。
赤子の身体の半身は光の中へ収まっただろうか、耳をつんざく様な泣き声も今は弱々しい。
「――頃合デすネ」
少年の言葉に頷き、彼へと視線を戻す。
そして男は腰に差していた短剣を抜き、その切っ先を少年の左胸に宛がった。
「耐えよ少年。汝、幾時も神をあやす玩具となるものなり!」
男は言葉を放ち、少年の左胸に短剣を深く食い込ませる。
そしてゆっくりと四角を描く様に少年の胸に短剣を走らせた。
「――!」
全身を走る激痛に、少年は声を上げそうになるのを堪える。今ここで声を上げれば、赤子の前に居る少女が儀式を中断しかねない。自分の失敗で今まで積み上げたものを壊す訳には行かないのだ。
私ガ、彼女ヲ救ワナけレバ、一体誰ガ彼女を救ウト言ウノだ――
少年はただひたすらに、自分にそう言い聞かせ続ける。少しして、その意識が朦朧となりだした時、彼の目に自身の物である生者の証が映し出された。
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