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少年の声にならぬ声が聞こえ、少女はびくりと肩を震わせた。
――今、自分のせいで少年が贄に捧げられている。その罪悪感が、ゆっくりと少女の意志にひびを入れ始めていた。
『この位で動じるな、空け者――!』
少女の頭の中に、女性の声が響く。楽天的な普段の口調からは想像出来ないその言葉に、少女は目を見開いた。
『あの子が覚悟しているのに、主役が腑抜けてどうする――!』
「――!」
そうだ、彼は自分の為に覚悟を決めているのだ。それに応えられずに、なにが添人だ。少女は瞼を閉じ、女性の言葉を強く反芻させる。 そして、瞼を開け赤子を強く見据えた。赤子はもはや左腕しか見えず、泣き声はもう聞こえてこない。
――後少し、後少しで全てが終わる。赤子の左腕も残すは手首から先だけになり、光はさらに強くなっていく。
そして少女達の後ろから、赤子の左手へと何かが投げ込まれた。
少女はそれを瞬きもせずに見届ける。なぜなら、それが彼女の義務だから。
投げ込まれ、そして赤子の左手の中へと収まったそれは。
少年の心臓なのだから。
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