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邪神の封印が行われてから一月。贄に捧げられた少年は、多くの観衆が集まる中心で、処刑台に立たされていた。おおよそ死刑囚には似合わぬ様な清楚な服を着、相も変わらず四肢を鎖に繋ぎ止められ、仮面も取り付けられたままである。
処刑台の下、観衆よりも少し高い場所。そこから一目で解る程豪勢に造られた軍服を着込んだ男が、手に持つ書状を読み上げた。
「この者、邪神の贄となり我が国の禍となる者なり。殺す事の出来ぬその邪悪なる存在を、我等が偉大なる祖先の力によってこの世界から追放す――!」
男の言葉の終わりと共に多くの歓声が響く。
民衆達には邪神とその贄の区別などつくはずもなく、少年こそが邪神と勘違いをしているのだろう。
しかし処刑台の上に立つ少年は、これから起こる事にも、民衆からの罵声も頭の中には入って来なかった。
ただ考えるのは邪神を封じてすぐに、姿をくらました少女の事だけ。何故自分の前から彼女は去ってしまったのか、どうすれば彼女に会えるのか――。
少年の後ろに大きな門が現れる。
「偉大なる祖先が遺せし遺産、アタラクの扉なり――!」
アタラクの扉と呼ばれた門はゆっくりと開き、処刑台の上ただ立ち尽くす少年を飲み込もうと、開かれた空間から無数の腕を伸ばした。
「――神ヨ」
少年は呟く。
もし、貴方が気まぐれで無慈悲な存在ならば
もし、貴方が好奇で賢い存在ならば
――もし、貴方が想いを解る存在ならば
「彼女ニ、モう一度逢えル運命ヲ、私ニ――」
現れた無数の腕に搦め捕られながら、呟いた願いと共に彼は扉の奥へと飲み込まれる。少年を飲み込んだ門はゆっくりとその扉を閉じ、まるで初めから存在しなかったように、その姿を掻き消した。
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