事の終末

2/2
前へ
/138ページ
次へ
 邪神の封印が行われてから一月。贄に捧げられた少年は、多くの観衆が集まる中心で、処刑台に立たされていた。おおよそ死刑囚には似合わぬ様な清楚な服を着、相も変わらず四肢を鎖に繋ぎ止められ、仮面も取り付けられたままである。  処刑台の下、観衆よりも少し高い場所。そこから一目で解る程豪勢に造られた軍服を着込んだ男が、手に持つ書状を読み上げた。     「この者、邪神の贄となり我が国の禍となる者なり。殺す事の出来ぬその邪悪なる存在を、我等が偉大なる祖先の力によってこの世界から追放す――!」      男の言葉の終わりと共に多くの歓声が響く。  民衆達には邪神とその贄の区別などつくはずもなく、少年こそが邪神と勘違いをしているのだろう。  しかし処刑台の上に立つ少年は、これから起こる事にも、民衆からの罵声も頭の中には入って来なかった。  ただ考えるのは邪神を封じてすぐに、姿をくらました少女の事だけ。何故自分の前から彼女は去ってしまったのか、どうすれば彼女に会えるのか――。      少年の後ろに大きな門が現れる。     「偉大なる祖先が遺せし遺産、アタラクの扉なり――!」      アタラクの扉と呼ばれた門はゆっくりと開き、処刑台の上ただ立ち尽くす少年を飲み込もうと、開かれた空間から無数の腕を伸ばした。    「――神ヨ」      少年は呟く。      もし、貴方が気まぐれで無慈悲な存在ならば      もし、貴方が好奇で賢い存在ならば      ――もし、貴方が想いを解る存在ならば     「彼女ニ、モう一度逢えル運命ヲ、私ニ――」      現れた無数の腕に搦め捕られながら、呟いた願いと共に彼は扉の奥へと飲み込まれる。少年を飲み込んだ門はゆっくりとその扉を閉じ、まるで初めから存在しなかったように、その姿を掻き消した。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加