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強い日差しとむせ返る花の香りによって、少年の意識は現実に引き戻された。
ゆっくり身を起こすと、視界は空を除いて一面広がる花畑。地を覆い隠す程咲く花々は、風が吹く度に大きく波打っている。
ここは何処なのだろうか。少なくとも、元居た地ではない事は少年に理解できた。
太陽があり花が咲いている、そして息もできるという事は少なからず生き物が存在しているはずだろう。しかしそれらしい気配は無く、寧ろ不気味な程の静寂に満ちている。
何かの縄張りなのだろうか。
少年はそんな考えを浮かべ、すぐに何故そんな考えを浮かべたのかと苦笑した。
今更そんな事を考えても、今の自分には意味がないだろうに。
起こしていた身体を、再び花の絨毯に沈ませる。
目に映る空は青く、雲は遠い。今まで見て来た空との、あまりの違いに驚かされる。
もし本来の自分だったならば、もっと感動出来ていたかもしれない。
そんな事を思っていると、せっかく雲に隠れていた太陽がまたその姿を現してしまった。
少年は太陽の光を遮ろうと右腕を持ち上げる。 ジャラ、と右腕の動きに合わせて繋げられたままの鎖が音をあげた。
「――眩シい」
右手をかざしても、少年にはまだ眩しいらしく、仮面越しの目を細めた。
「この日差しが、そんなに眩しいかしら?」
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