100人が本棚に入れています
本棚に追加
右手よりも大きな何かが、少年に降り注ぐ太陽の光を遮った。
持ち上げていた右手を下ろすと、花を模したような傘が目に映る。
「エエ、私ニとッテハ――とテモ、眩シいでスネ」
「いつもよりは日が強いけど、大体はこんなものよ。ここに居る内には、慣れておくと良いかもね」
そう言うと、傘の主は少年に傾けていた傘を自分へと戻す。強い日差しがまた少年に降り注ぎ、彼はまた目を細める事になった。
「それにしても――人の花畑に堂々と寝転んでるなんて、随分と良い御身分なのね」
皮肉たっぷりな言葉を受けて、今更ながら彼は自分が酷く無礼な態度を取っているのに気がついた。
改めて謝罪しようと立ち上がり、傘の主の方へと振り返ると、いつの間にか彼女との距離は離れ、少年に背を向けている。
本当にいつの間に、だ。
「申シ訳アりマセン、無礼ヲお許シ下サイ」
「――意外と礼儀は弁えてるじゃない。まあ、今回は許してあげるわ」
深々と頭を下げる少年を一瞥して
それに、今のは軽い冗談みたいなものだしね、と付け加えた。
少年は下げていた頭を上げると、背を向けている女性に問い掛ける。
「私ハ、ドこニ向カエば良イのデショウか?」
それを聞いた女性は、傘で隠れている表情を崩し
「私にそれを聞いてどうするのよ」
と答えた。
仮面越しの表情は伺えないが、恐らく自分が何故そんな事を聞いたのかという疑問を浮かべた表情だろうと、彼女は予想した。
「私自身モ、何故貴女に聞イタのカ――。貴女ニ聞くベキトいウ考エガ、急ニ頭に浮カンダのデ」
そう言うと少年は、仮面の顎にあたるであろう部分に手を当て首を傾げる。
それを何となく予想していたのか、女性は呆れ声で
「――本当に急に出て来たみたいね。まあいいわ、教えてあげるから感謝しなさい」
最初のコメントを投稿しよう!