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砂丘を行く風が刺すように冷たい。
天上に存在を主張する銀の月から降り注ぐ蒼白い月明かりを受け、砂塵の一粒一粒が煌めくように淡い光を放っている。
星たちの存在は朧げであり、月光によってその存在が霞んでいるように思えた。
既に真夜中。
方向を知る手掛かりがなければ、この途方もなく広大な砂漠を生きて渡ることなど出来ないだろう。
事実、この砂漠で命を落とした人間など多々いる。
そこらの砂を掘り返せば、人間の頭蓋などすぐにでも見付けることが出来る。
風に浚われる砂がまるで海のように見えた。
この砂海を渡る人間が一人。
砂埃を肺に入れぬようにしっかりと防備をしているが、その姿から砂漠を旅慣れているものだということはすぐにでも理解出来る。
そして彼が異端の存在であるということも。
褐色の肌に、長く伸ばされた黒色の頭髪。
両の眼に宿る光は黒曜石の如く黒く、顔立ちもフロンティアのものではない。
他に存在が知られぬ種族―――否、正確にいうのであれば存在を抹殺された種族。
かつてこの砂漠に栄華を誇り、文明を興した民である。
形容するならば“土の民”または“砂漠の民”とでも呼ぼうか。
欲望と激動の時代に飲み込まれた亡国の人間。
主流民族であるフロンティアの他にも少数民族がいるが、彼の容貌と一致する民族はない。
それでもなお突き詰めるのならば、ひとつ行き着く先がある。
【アシュタール人】
過去にあった民族であるが、その存在は対外的に知られることもなく滅亡した。
亡き王朝、この砂漠を統べた人種。
戦で失われたものは国だけではなかった。
アシュタール人としての誇りも、そして今まで積み重ねてきた年月も、全てが一瞬にしてなくなってしまった。
何よりも嘆かわしいのは―――アシュタールという単語も、カタール王朝という単語も、この世から失せてしまった、ということだろう。
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