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違う視点からそれを説明するのならば、王という存在は国民に対して常に恐怖感を持っていると言い換えることができる。
故に、その不満の矛先を己自身から逸らせるのであれば、一国一族を滅ぼすことなど容易であるだろう。
国の糧である国民を失えば、礎は脆くも崩れ去り、傾国する。
それは同時に文化を失うということであり、後々の史書に残る醜態だ。
人は何時の時代でも身勝手である。
己が生きた時など、史書に書き残すとするならばほんの数頁のうちに終わってしまうだろうに。
それでも、未来に囚われるのが本来人間のあるべき姿なのだろう。
『人心を手中にせよ』
古の王たちの格言を並べても並べ足りないほど、国民は強い存在であり、またなくてはならない存在であるといえる。
太古より連なる争いの系譜はここにあるのだ。
戦は国を豊かにさせもするが、疲弊させもする。
その確率は左右に揺られる天秤の如く不安定だが、少なくとも戦勝として得られる財や領土など、国にとってこれほど美味なるものはない。
最も、その結果として残るものが何か―――戦勝国は分からないのだろう。
国民の不満を背けるため、一国一族を滅ぼした結果として残る白き巨塔。天を衝くそれは【創世の塔】と呼ばれている。
光沢を帯びた石が積まれ、嵌め込まれたステンドグラスは世辞にも美しいとは言い難い。
薄気味悪い鮮やかな色彩を放つ神々。
しかし、この巨塔が忌まわしい過去の上、汚れた過程を経て成り立っているということを知るのは、誰一人としていないとするならば―――
滅ぼされた一族は、それを何と思うだろう?
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