序 章 狂乱の果て

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 今より遡ること15年。 創世歴842年のことであった。 そう、本来ならば歴史書に書き残されるほどの事件であっただろう。 この世界の主流民族であるフロンティア人が篤く信奉する【聖教】が引き金となり、勃発した戦争があった。 【第一次聖教徒侵攻】 カルディリアス大陸の南方に位置する砂漠地帯―――水都カルデナ皇国と砂漠を隔てるのは、高く険しい山々が立ち並ぶ天嶮バリスタル山脈。 戦の舞台は、古くからの独立国家として栄華を誇っていたカタール王朝領地である【シャラ砂漠】だ。 大河の畔にあるこの大国は、大陸南部に広がる砂漠地帯全域を領地としている。 しかし、この広大な砂の海を領土にしたところで何の得もない。 それどころか耕作したところで作物が育つかどうかも分からぬ環境である。 目的は領土でも、資源でもない。 戦というものはいつの時代も小難しい理由で起こるものではない。 宗教戦争と銘を打った通り、これは“聖地奪還”を目指す宗教絡みの戦であった。 対戦国は【カルデナ皇国】と【カタール王朝】。 カルデナ皇国とは、世界の圧倒的多数が信奉する聖教のメッカであり、総本山でもある王国である。 海外からも挙って巡礼者が集まっており、一種の宗教大国といっても問題はないだろう。 聖教が奉る神は創世神オルティヌスといい、この世界を作り出した神と定義されている。 神話を聖書としたものであり、少なくとも信じるか信じないかは個人差があるだろう。 だが、時代は混迷を極めていた。 藁にも縋る思いで宗教を信奉する狂人たちは、その神話が実話であるということを信じて止まなかったのだから。 .
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